eBay創業者オミディア氏が目指す「新」マスメディア

Share Button

誰も書くまい、まあ、週明けにでも−−−と思っていたら、すかさず朝日の平和博さんのブログ「新聞紙学」に「今週最大の話題はこれだろう。メディア関係者には衝撃のニュースだ」と先週末に書かれてしまいました。

こういうことです。「米国家安全保障局(NSA)の極秘情報監視をスクープした英ガーディアンのコラムニスト、グレン・グリーンワルドさんが同紙を離れ、イーベイ創業者のピエール・オミディアさんが立ち上げるニュースベンチャーに参加する、というのだ

詳しくは、平さんのブログを御覧いただくとして、メディア関連の新たな動きに興味を持ってきた当ブログとしても、いつもの様に、グーグルで検索する限り大手メディアの報道は、朝日新聞のこの簡単な記事しか見当たらないようなので、ちょっと角度を変えて取り上げてみます。

それは、eBay創業者の一人で、大富豪であるPierre Omidyar氏の壮大な目論見は、成功する環境にあるのではないかということです。

壮大な目論見とはなにか。それは、Omidyar Groupのサイトに10月16日付けで掲載された、Omidayar氏の声明「My Next Adventure in Journalism」に明らかにされています。そこで、この夏、アマゾンのベゾス氏が2億5千万ドルで買収したワシントン・ポストの買収を、自分もまた検討していたと明かしました。

その検討過程で彼が考えたことは「もし同程度の投資を全く新しいものになされたら、どういう社会的インパクトが創り出されるだろうか」ということだったそうです。そして、自らが直接関わり、独立したジャーナリストをサポートし、その仕事を最大限活用することで、読者を物事に関わるようになる方法を見つけ出したいとし、「私は今、新たなマスメディア機関を作り出す初期段階にある」と、既存マスメディアに対抗する「新マスメディア」を作ると宣言しているのです。

<マスメディア>だということは、ワシントン政治を深堀りして成功したPoliticoや、今年のピュリツァー賞を獲得した地球温暖化問題に取り組むInsideClimate Newsのような特定ジャンルに限定せず、「General Interest Newsを扱う」「多くのセクターの専門記者をサポートし、力を与える」と述べているように、既存メディア同様に幅広いジャンルを扱うということです。

そして、この新メディアは、例えば、富豪の財団からの支援で運営され、やはりピュリツァー賞を獲得したProPublicaのような慈善ファンド頼みでなく、利益を生み出す新たなベンチャーだ(NewCo is a new venture— a company not a charity.)と、著名ブロガーでニューヨーク大学教授、Jay Rosen氏のインタビューで明らかにしています。

こうした構想について先日、このブログで取り上げた新興人気メディアのQuartzは「うまくいけば、世界の左翼的な読者を相手に、英国Guardianに対抗する可能性を秘める」とまで持ち上げています。

しかし、シロートにそんなことが可能なのか?という疑問は当然あるでしょう。でも、Omidyar氏には幾つもの有利な条件、環境があるように見えます。

その第一は、ワシントン・ポストの新オーナー、ベゾス氏の250億ドルには及びませんが85億ドルの個人資産があることです。自らの判断で使える カネです。これが既存大手メディアで、どれだけ使いでがある額かというと、販売収入も広告収入も全くないとしても、ニューヨーク・タイムズ(NYT)を6年は運営できる大金です。(ニューヨーク・タイムズ・メディアグループの2012年の収入は13億3千万ドルでした)

人気ブログMonday Noteを主宰する、パリ在住のジャーナリストFrederic Filloux氏が昨年1月、NYTが紙の新聞を出すのをやめたらどうなるかの収支を試算して話題になったことを当ブログでも紹介しました。詳細は彼のブログ記事The NYT’s Melting Iceberg Syndromeをご覧頂きたいのですが、要するに平日版の紙の新聞を印刷せず、一方、デジタルを強化すれば10億ドルでやっていけるというものでした。NYTクラスの大新聞の体制で、無収入でも8年は耐えられる。まさにdeep pocket。これはなによりの強みです。

そして、実は彼はメディアのシロートではありません。このブログでも以前に注目した Civil Beatという有料ネットメディアをハワイ・ホノルルで2010年春に立ち上げ、経営に関わってきた経験があります。編集長には、その直前に廃刊となったロッキーマウンテンニュースの社長兼編集局長だった大物John Temple氏を迎えてのスタートでした。(Temple氏は、その後、ワシントン・ポストの編集局長に迎えられました)

Temple氏の招聘もdeep pocketあってこそのことだったのでしょうが、今回の「新マスメディア」で、多数の有能なジャーナリストを集める上でも有利なことでしょう。時代は大きく変わっていて、ネット上で注目されるメディアへは、待遇さえ良ければ、どんどん既存の著名メディアから移籍するのがちっとも珍しくなくなりました。

それは、一頃話題になった、NYTなどからのHuffingtonPostへの集団移籍だったり、Politicoの場合はスポンサーを得て、ワシントン・ポストの大物政治記者数人が中心にスタートしたことでも明らかです。ProPublicaもウォールストリート・ジャーナルの編集局長を迎えて始まり、ロサンゼルタイムスなどの著名紙の出身者も多いようです。

さらに、最近話題のQuartzの記者、編集者25人の殆どはウォールストリート・ジャーナル、ロイター、ブルームバーグ、エコノミスト、ニューヨークマガジンなどの有名メディアから来ていると、先のFrederic Filloux氏がブログで紹介していました。この流れは止まらないでしょう。

どこから生じたのか知りませんが、Omidyar氏には、良質なメディアへの強い思いそれを可能にするカネも経験もある。そして、新聞を中心とする既存メディアが振るわない時代に、有能なジャーナリストが、カネと書くスペースを提供してくれる新興メディアへの移籍がますます当たり前になりつつある。米国家安全保障局の情報監視のスクープで名を上げたGlenn Greenwald氏が、Guardianを辞めてOmidyar氏のもとに駆けつけると表明したのもその端的な一例でしょう。

一方で、経営上の問題から、カネと人手のかかる調査報道が衰退しつつあると言われる中で、調査報道の充実が求める読者の期待もある。そして、既存の新聞がデジタルメディアに脱皮するには人切りなどで大きなハードルがあるのに対し、しがらみのないところからスタートするのもOmidyar氏にとっては有利なところです。

Omidyar氏は先の声明の最後に<we have a long way to go in terms of what the organization looks like, people’s roles and responsibilities>と書き、組織の細部を詰めるまでまだ時間がかかることを示唆していますが、登場したときに、どんなインパクトをネットの世界で持ち、既存メディアにどんな影響を及ぼすのでしょうか。関係者はハラハラドキドキなことでしょう。

 

 

Trackback URL

No Comment

No comments yet

Leave a reply