生身の記者がいなくなる日

Share Button

ニューヨーク市にGameChanger Mediaという社員22人と犬1匹の会社があります。そのCEO、Ted Sullivan氏はDuke大学野球部のエースで、卒業後クリーブランド・インディアンスのマイナーチームでプレーしましたが、そのあと野球を諦めてハーバードビジネス・スクールを卒業したという経歴です。

その、野球大好きの彼が事業化の対象として目をつけたのが大手メディアでは露出することのないアマチュア野球でした。全米各地で行われている高校野球やリトルリーグ、ソフトボールの試合の模様をリアルタイムでiPhone、iPadやパソコンに配信しようとしたのです。しかも、ゲーム展開の記事まで付けて。

しかし、Forbesの記事によると、米国の18歳以下の野球人口は2,500万人と推定されるとのことです。週末ともなれば、何千、何万の試合が行われているかもしれません。それを、一体、どうカバーするのか?

解決策は、最近はあまり使われなくなった言葉ですが、Crowd Sourcingでした。スターティングメンバーから一球一打のプレイ、各回の得点などを簡単に入力できるiPhone用のアプリを無料で公開して、チームの監督や記録係に入力してもらい、それをGameChangerのサーバーに送ると、きちんと整理した表(box)にしてくれるです。

これは、手書きののスコアブックを置き換えただけのように見えますが、そうではありません。第一に、試合の途中経過がリアルタイムで、試合に来られなかった父兄や友人のもとにストリーム形式で送られます。(ヤフージャパンのプロ野球ページの「一球速報」のような画面です)

第二に、データが蓄積され、選手の打撃成績や投球成績が10種類以上も分析されているので、監督、コーチは初めての対戦相手の選手の情報を容易に知ることができ、作戦が立てられます。こういうインセンティブがあるので、各チームで採用が広がっているのです。

そして第三。実はここが私の関心事なのですが、試合展開をまとめた「戦評」が、選手たちが試合終了後の握手も終わらないうちに配信されるということです。さあ、これで得点のイニングスコア、選手成績をまとめたボックススコア、そして戦評が揃いました。

そこで第四として、日本の新聞とは段違いに細かなローカルニュースにも力を入れている地元紙に売れるわけです。契約先にwidgetを使って流れる仕組みで、新聞社にしてみれば、人減らしのさなか、とてもカバーしきれないリトルリーグの全試合をアウトソースしている形です。

第五に、これは蛇足ですが、このアプリのダウンロードは無料ですが、細かい統計や分析、個々の選手についての速報や戦評などは月8ドル、年間だと40ドル必要です。無料なのはイニングの点数だけです。しかし登録したチームの監督や記録係にはすべて無料で提供しています。こうしてGameChanger Mediaは父兄とローカル紙の両方から収益を得ているのです。

GameChangerがどのくらいの試合数をカバーしているか。公表数字はありませんが、Wiredの著名記者Steven Levyの記事によると、2011年に書かれた戦評は40万本近くだったが、2012年は150万本になるだろうということですから、それだけの試合数をカバーしているということでしょう。

では、どうして、「握手も終わらないうちに」戦評が配信されるのでしょう。もちろん生身の記者が書いているわけではありません。人工知能(AI)を備えたコンピュータが書いているのです。それはGameChangerが、これも30人ほどのシカゴのベンチャーNarrative Science 社のソフトウェアを採用していて、試合中に入力されたデータの数字を解読、他のデータとも突き合わせて文章を瞬時に自動生成するからです。

AFPの最近の記事によると、このNarrative Science社は、Northwestern大学のコンピュータサイエンスの教員で、同大のジャーナリズムスクールとの共同プロジェクト「Generating Content」のトップだったKritian Hammond氏をCTOにして2年前に作られたばかりですが、いまやこのGameChangerのほか有力なニュースサイトの一つForbesのサイトなど40もの顧客があるそうです。

そのForbesのサイトでは、「Forbes Earning Preview」で使っています。論より証拠で実際に読んでいただければ分かりますが、ちゃんとした文章になっていると思います。この例はYahooの業績について書いていますが、実際は膨大な資料の数字を読み解いて文章にしているわけです。

AFPの記事では、Hammond氏は、顧客の反応はよく、これまで「ヘマやドジなことはひとつもない」と胸を張っています。事実、先のWiredの記事で、Forbesの幹部が「自動生成記事への苦情は一つもない」と保証しています。

そして、Hammond氏は驚くべき自信も示しています。Levy記者に「15年以内に、コンピュータによって書かれる記事の割合は何%位になるか」と問われ、「90%以上」と答え、さらに、「ピュリッツァー賞をコンピュータ生成記事が20年以内に獲得できるだろうか」という問には、なんと「5年以内に取れる」と答えているのです。

「EPIC2014」というフラッシュムービーがありました。2004年末に作られ、翌年にかけて世界的に話題になりました。googleとamazonが合体してgooglezonとなり、一人ひとりの人間関係、属性、消費行動、趣味など詳細なデータを把握する一方、googlezonのコンピュータは新アルゴリズム用いて、あらゆる情報ソースから事実や文章を抜き出して、再構成した新しい記事を、各個人向けに書き出す・・・・というものでした。その究極のものが「2014年3月9日に発表されたEPIC(Evolving Personalized Information Construct)だった」のです。

2004年当時、FacebookもTwitterもありませんでした。今は、一段と個人情報が集めやすくなっています。そして一方で、Narrative ScienceのようなAIが、今は生データの数字を読み解くような分野に限られているかに見えますが、急速に実用化され、存在感を高めていることを思うと、「EPIC2014」発表の日まで、あと1年半ですが、なんだか急に現実味を増してきた感がしてなりません。

 

 

 

Trackback URL

1 Comment so far

  1. Antonietta on 2月 25th, 2014

    I must thank you for the efforts you’ve put in penning
    this blog. I’m hoping to view the same high-grade blog posts by you
    in the future as well. In truth, your creative writing abilities
    has motivated me to get my own, personal site now 😉

Leave a reply