ビジュアル・ジャーナリズム/デザインが新聞を救う!?
大変遅ればせながらポーランド人の新聞デザイナー、ジャチェック・ウツコ(Jacek Utko)氏の講演ビデオを見ました。今年2月、米国・ロングビーチで開かれたTED2009での模様です。本人は流暢な英語を話すのですが、これに日本語字幕が最近ついたので、どなたでも気楽にごらんになってください。
彼はワルシャワ在住で、元は建築家だったそうですが、ロンドンでシルク・ド・ソレイユの公演を見て「(サーカス?のような)しけた興行が最高のパフォーマンスアートになった。つまらない新聞も同じことができるかも」という天啓を受けて、思い切ったデザインを新聞に取り入れ、2004年以来、多くのコンテストで表彰を受けているそうです。彼の考えの基本は「紙というフォーマットを使える有利さを生かそう」ということです。
見出しや本文をパソコンや携帯電話の画面に出るのと大差のないような形で印刷しても仕方がない。それは昨日、ディスプレーを通して見た、ってことになって今の新聞は見放されつつあるんだから、そうじゃない方法、つまりディスプレーでは映し出せないような表現を紙面で徹底的に実現しよう、ってことです。それを彼は[Make posters,not just table of newspaper's content]と表現し、そのことをビジュアル・ジャーナリズムと言っています。ポスターのような新聞がどんなものかはビデオをご覧いただいた方は大体分かるでしょうが、彼のサイトにもいろいろありますのでどうぞ。
うーむ、確かに彼のデザインは凄い。おしゃれです。日本語新聞であんなのがあったら買いたい、って思わせます。 ただし、ただ派手なポスターみたいな新聞を作れと言っているだけではありません。どうすれば読者に思いが届けられるかを徹底的に考え抜いて、今までの定型を崩して突き抜けろ、と主張します。<Don’t stop when you think it’s good. Good is not enough. Most of people stop at this point. Don’t follow them, they are losers. Only great is good enough.>なんてシビレルような名せりふを吐いたりします。このあたりは始めたばかりの彼のブログをご覧ください。
で、彼はこのデザインの革新で部数が伸びた、とビデオの中で自慢しています。彼の所属するスウェーデンのBonnierは旧共産圏を中心に多くの新聞を発行していますが、彼は「ロシアでは1年目11%、2年目19%、3年目29%と伸びた。ポーランドでは13%→22%→35%だった。ブルガリアではなんと100%だ!」と講演で紹介しました。単純な私など、新聞冬の時代になんとも凄い数字だと感心するばかりです。
ただし、彼がプレゼンで示した新聞はいずれも部数の少ない経済専門紙だということに留意する必要があります。前出のBonnierのサイトのここで調べることが出来ますが、それによるとロシア紙は21,800部、ポーランド紙23,300部、ブルガリア紙に至っては5,800部に過ぎません。いえ、部数が少ないからその伸びはたいして意味がないと言いたいのではありません。ただ、経済紙という性格上、多くの経済記事に含まれる数字などを噛み砕いて独特のデザインに結実させ、アピールしやすいという面が一般紙に比べてあると言えるでしょう。また評判になればビジネスマンが一般紙とは別に購読を始めると言う面もあるでしょう。そこで基数が少ないので伸び率は大きくなるわけです。
日本の全国紙でもかって紙面のビジュアル化が唱えられたことがあります。それはカラー印刷が可能になり始めたころのことで、せっかくカラー紙面が出来るのに利用しない手はない、ということから始まったと思われます。もちろんJacek的な発想もあったかもしれませんが彼ほどは徹底した考えには至らなかったということでしょう。それは今に続いています。また当時は新聞の危機という思いは稀薄でした。
しかし、今後は日本の一般紙でも、Jacek的な発想を取り入れることが必要になってくるのではないでしょうか。すでに朝日新聞が月2回、本紙に挟み込んでいる8ページのGlobeという例があります。横組みのおしゃれなレイアウトで、ビジュアル性が強く、従来の新聞の定型を破っています。Jacekの関わる新聞にちょっとテイストが似てるかもしれません。これからどんな試みが日本で始まるかを楽しみにしましょう。
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