視聴者主導時代が始まる?

みなさんはじめまして。今日からこの欄に、生々流転するデジタル社会で目に止まったことを書き連ねていくことになりました。齢60をとっくに超え、しかもルーツは政治記者という、この世界では私自身、他にお目にかかったことのない珍種ですので、どうぞ可愛がってお手柔らかにお願いいたします。

さて、第1回目、なにかバシッとした話にしたいところですが、「いきなり肩に力を入れると、あとが続かないよ」というアドバイスを頂き、まずは最近の「ヘ~~エ」から。

発売開始からもう一月も経っていて、ご存知の方も少なくないかも知れませんが、PTP社製のSPIDER zero(スパイダーゼロ)というHDR(Hard Disk Recorder)のデモンストレーションを水曜日(23日)に間近で見る機会がありました。

デモをした有吉昌康社長は「ハードディスクレコーダーと言って欲しくない。ハードディスクビューワー、全録レコーダーと言ってほしい」と言います。
一昔前のビデオレコーダーや通常のHDRでは、見たいテレビ番組を「予約録画」するわけですが、スパイダーだと、なんと、地上波「全チャンネル」の「全番組」を録画しちゃうので「全録」というわけです。

説明によると、最大8チャンネルを同時の場合で7日間あまり録画し続け、以後は古いものから順に自動的に削除されるので、常に直近1週間分の全チャンネルの全番組が蓄えられているそうです。録画対象をNHK総合と民放キー局だけの6チャンネルとし、画質をちょっと落とせば2週間まで録画時間は延びる計算です。

1週間、8つのチャンネルから放映される番組は2000本、CMは4500本とか。技術的なキモはその検索方法にあります。普通なら番組予約に使うEPG(電子番組表)をさかのぼって検索します。あとは番組名や出演者名でも検索出来ます。CMも企業名や商品名で検索出来る外、カテゴリー別、例えば「エンタメ」を選ぶと映画の予告編が88本表示され、自動的に再生されるという仕組み。お気に入りタレントのCMばかりを連続再生も可能。ここまで来ると、普段は番組を中断するヤな存在!って思いがちなCMを見る目も変わるかも?と感じさせます。

もっと驚きはキーワード検索が可能なことです。「コーナー検索」と名付けられたこのサービスでは、例えばさる11日発売の「iPhone」がニュース番組でどう取り上げられたか?を見比べられます。しかも、ニュース番組内でiPhoneへの言及が始まったその瞬間から始まるのにはたまげました。2倍速程度でも十分ついていけるので、ニュースチェックが仕事の内の企業広報部にはうってつけでしょう。

こういう作業はまだコンピュータでは出来ないようで、「人力」での作業だとか。当然、タイムラグがあって、2時間半から3時間後から利用可能になるとのことです。(もっともこれは昨年から企業向けに出しているスパイダープロでしかサービスしてません。サービス料金が高くなるので、一般向けには省いたと言います)

こういう各種検索がどうして可能かと言うと、マシンをインターネットに繋ぎ、常に番組情報をユーザーのマシンに送り込んでいるからです。有吉社長がインスピレーションをうけたという米国で人気の「TiVo(ティーボ)」という録画サービスでは録画予約にインターネットを使っていますが、スパイダーでは検索にネットを使っているわけです。ちなみにTiVoでは番組表からの通常予約のほかに出演者やキーワードなどで番組が探せ、ユーザーの視聴傾向を判断して勝手に予約を入れてくれたりします。

予約と検索の違いはあってもこういう似たような便利サービスをしているのは同じことなので、両方ともマシンのほかにお金がかかります。スパイダーゼロは年間12600円。TiVoは129ドルですから、このあたりも似通ってます。もっとも、マシンの値段はTiVoがただいまキャンペーン中で、、180時間録画可能機(ハードディスク容量160ギガ)がたった180ドルなのに対し、スパイダーの方は1週間8チャンネル録画可能機(2.5テラ=2500ギガ)で約38万円と大違いではあります。

まあ、この値段では一般の人にはちょっと高値の、じゃなくて高嶺の花のスパイダーですが、くどくど書き連ねたのにはわけがあります。

スパイダーの価格は確かに高い。有吉社長自身「ベンチャーなのでこの値段にならざるを得ないが大手電器メーカーが作れば半額になる」と認めていますが、HDD価格がご存知ムーアの法則以上のペースで下落している以上、すぐに手頃な値段になることが期待できそうだからです。

例えば2000年に1万円で買えたHDD容量は10ギガでした。それが06年には250ギガ製品が買えるようになり、1年前には500ギガが1万円割れしたと報じられました。価格コムで最新情報をチェックすると1テラの製品が1万3千円ほどです。年内1万円ってこともあるかもしれません。そうなると8年で百倍の容量拡大、逆にいうと百分の1の価格になったということです。

「見たい番組を好きな時に、いつでも、どこでも、何からでも視聴可能に」という観点から世界的な標準化作業をしているTV-Anytime Forumの副議長を務めている亀山渉早大教授に、以前伺った話ですが、HDD価格の下落傾向から推定すると「2010年にはHDD価格100ドルあたりの録画時間は14,400時間に達する。テレビ局10局24時間、1か月録画しても7,200時間。2010年代半ばには100ドルのHDDで1年間録画し放題になるかも」という計算に驚愕した覚えがあります。

長くなっちゃいましたので、そろそろ止めますが、スパイダーのような魅力的なサービスが格安になって普及したら、おそらく視聴行動は劇的に変わるような気がしてならないということです。テレビ局が送りつけてくる番組をリニアに見るのではなく、視聴者の都合で、言い換えれば視聴者主導のテレビ視聴という時代が迫っているのじゃないでしょうか。もちろんスポーツ中継のようなリアルタイム性に価値のあるものはそのままでしょうけど。

そして端末も自由になるのでしょうね。その端緒は例えば、この春、NECが発売したホームサーバー「Lui」(Life with Ubiquitous Integrated solution)に垣間見ることが出来ます。家庭に置いた1テラのサーバーに録画を含めたコンテンツを溜め、外に持ち出せる超軽量パソコンや、ポケットパソコンで好きな時に好きな場所から、録画した番組にアクセスしようという製品です。こっちも本体だけで38万円だそうですので、そうそう手が出ませんが、なにか流れを感じざるを得ないのです。そうそうiPhoneも出たことだし・・・・

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